クリニックブログ

2020.05.112024.04.01

躁うつ病や双極性障害における薬物療法について:抗うつ薬

【抗うつ薬】躁うつ病・双極性障害の薬物療法について

これまで、躁うつ病や双極性障害の薬物療法における、気分安定薬抗精神病薬の詳細については解説をしました。

もちろん、双極性障害・躁うつ病と分かった場合に、抗うつ薬を初回で処方したりすることは推奨されていません。しかし、抑うつエピソードが強い双極性障害や躁うつ病の場合には、基本となる気分安定薬や抗精神病薬と共に抗うつ薬を少量併用して処方をされる場合も非常にまれではあるが、必ずしもないとは言えず、ここでは双極性障害の「抗うつ薬」について解説をいたしております。

【抗うつ薬の処方の注意】双極性障害の抑うつ症状のエピソード

双極性障害や躁うつ病と診断されている場合には、抗うつ薬を単剤で処方することは推奨はされておりません。

また、抗うつ薬の処方は、「躁転」や「躁状態への悪化」を促すきっかけにもなると言われており、特にSSRIよりも三環系抗うつ薬・SNRIの躁転率が高いので注意が必要です(エビデンスに基づいた双極性うつ病急性期の薬物治療ガイドライン. 臨床精神医学)

一方で、躁うつ病の患者に対し、気分安定薬などと抗うつ薬の併用では躁転エピソードを優位に悪化させなかったというデータもあり(Sachs GS et al:Effectiveness of adjunctive antidepressant treatment forbipolar depression. N Engl J Med 356: 1711-1722, 2007)やはり双極性障害での単剤の抗うつ薬の使用は勧められません。

躁うつ病における気分安定薬や抗精神病薬と「抗うつ薬」の併用について

躁うつ病の治療の基本は、気分安定薬や抗精神病薬の処方である為に、あくまでそれを前提に、気分安定薬とSSRIあるいはSNRIといった抗うつ薬との併用は基本的にはあまりありません。

躁うつ病での抑うつエピソードも外来では時として注目しなくてはならない症状でもある

たとれば躁うつ病の患者さんが、気分安定薬や抗精神病薬を基本に薬物療法を続けてきて、ある程度気分の波が落ち着いてきたとします。しかし本人としては「今一つ、うつ状態で余裕がない」、「意欲がわかない」、「眠れない日がたまにある」、「翌日だるくてつらい」という状態だったとします。このような場合に、抗うつ薬が必要かどうかです。

ですが、多くの場合には気分安定剤で不安定だった気分の波が小さくなった、あるいは不機嫌に高揚していた気分が落ち着いてきたが、「やる気が出ない、つらい」という状況では、安易に抗うつ薬を併用すべきでないと考えます。まずは日常生活でのアドバイスをしたうえで、様子を見ることをおすすめします。

【抗うつ薬の前に】認知面の見直しも一つの手

「ひとつの仕事内容にこだわらないで、いくつかの目標を立てること」、「やりやすいものや成果が出やすいものから始めてみること」、束縛のないやり方で、自由度が増す考え方も大切です。

つまり、日々の生活のなかで躁うつ病の患者さんが余裕をもてるように、あるいは「型にはめられて窮屈だ」と感じること、「自分の状態はこうあるべき」といった強い思いのせいで、自分を縛り過ぎてしまわないように過ごせるようすすめてみます。そうして様子を見ながら、どうしてもうつ状態がひどい場合には、やむを得ずSSRIを使うこともあります。

理由としては、SSRI、SNRIや三環系抗うつ薬は、うつ病ではたしかに有効性が認められていますが、躁うつ病のうつ状態に対しては有意差をもって優れていたとは必ずしも言えないとする報告もあるからです。Van Lieshout RJ, MacQueen GM: Efficacy and acceptability of mood stabilisersin the treatment of acute bipolar depression: systematic review. Br J Psychiatry 196: 266-273, 2010.

ですので躁うつ病の場合は、あくまで気分安定薬や抗精神病薬を基盤にし、抗うつ薬は不必要に投与されるものではなく、適応を含めた症状の詳細な把握をしたうえで、その基盤薬に上乗せして使用してみる程度のものです。しかし、抗うつ薬の併用は慎重でなければならず、そして炭酸リチウムに抗うつ薬を上乗せする場合、薬物間の相互作用のため、抗うつ作用が増強されるといわれているので、基本的に双極性障害や躁うつ病での抗うつ薬の大量投与は必要ありません。

抗うつ薬について

2012年の時点で、日本で使える抗うつ薬は19種類あります。そのうち、うつ病での使用頻度が圧倒的に高いのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。パロキセチン(パキシル)、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)があります。

さらにSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)として、ミルナシプラン(トレドミン)、デュロキセチン(サンバルタ)があります。それに続くのが、旧世代の三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(トリプタノール)など、そして四環系のミアンセリン(テトラミド)や、それとは機序の異なるスルピリド(ドグマチールなど)です。

SSRIやSNRIは、セロトニンやノルアドレナリンのトランスポーターというポンプをブロックして、神経と神経の間のセロトニン、ノルアドレナリンを増やすことで、セロトニン5-HT1A受容体を刺激して、うつを改善します。ただし、患者さんによっては、これらの薬がセロトニン受容体を過剰に刺激しすぎることがあるため、セロトニン症候群(下痢や吐き気、硬直・けいれん、興奮・錯乱など)という副作用を起こすこともあります。

抗うつ薬の作用とは

セロトニン5-HT3受容体は、下痢や吐き気などの消化器症状、5-HT2C受容体は不安焦燥感の憎悪、5-HT2A受容体は性機能不全に関係すると言われています。また、うつ病の患者さんがSSRIを飲むのを急に止めたり飲み忘れたりした時も、下痢や吐き気、めまいといった中断症候群が出ることもあります。

【SSRIやSNRIとは異なる抗うつ薬】ミルタザピンについて(レメロン、リフレックス)

最近では、SSRIやSNRIとはまったく違った作用機序でうつを治すミルタザピン(レメロン、リフレックス)が出ました。これはNaSSa(ノリアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)と呼ばれるものです。

ミルタザピンの作用機序

アドレナリン受容体(α2自己およびヘテロ)をブロックして抑制をはずし、神経細胞からのセロトニンの放出を促進しながら、ヒスタミン受容体(H1)とセロトニン受容体(5-HT2C、5-HT2A、5-HT3)をブロックするため、セロトニン5-HT1A受容体への刺激を選択的に増強し、不安・焦燥や下痢や嘔吐などの消化器症状、および性機能障害といったSSRIでよく見られる副作用を出さないで抗うつ作用を発揮する作用機序をもっています。

とくにセロトニンについては、①セロトニン5-HT3受容体をブロックすることで下痢や嘔吐を抑え、②アドレナリンα2ヘテロ受容体をブロックしてセロトニン放出を促進し、セロトニン5-HT1A受容体を刺激し抗うつ作用を発揮して、③セロトニン5-HT2Aおよび2C受容体をブロックすることで性機能障害と不安焦躁を出にくくする、といわれています。

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【躁うつ病の治療薬「気分安定薬」とは】

【躁うつ病・双極性障害の治療薬である「抗精神病薬」とは】

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など