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2018.12.302024.04.01
喫煙や飲酒は薬物療法の障害となる
喫煙や飲酒は薬物療法の障害となる
抑うつや不安を解消するために、精神疾患を抱えている患者さんは健康な人よりも、タバコを吸ったり、お酒を飲んだりすることが多いです。しかし、タバコもアルコールも向精神薬に悪影響を及ぼします。最悪の場合、呼吸抑制や死に至ることも。そのため、タバコやアルコールと向精神薬の関連を知り、患者さんに禁煙・禁酒を促すことは非常に大切なことです。
この記事ではタバコやアルコールと向精神薬の関連や、喫煙・飲酒している患者さんへの対応策について解説します。
タバコと向精神薬
タバコの煙は、薬の血中濃度を下げます。できれば患者さんには禁煙をすすめ、それが無理な場合は禁煙治療を行いましょう。
①タバコと向精神薬の関連
タバコの煙は一部の肝酵素の活性を促します。喫煙回数や煙の吸入の程度、タバコの種類によって肝酵素の誘導の程度は異なりますが、喫煙することで向精神薬の血中濃度は低下します。薬によって幅がありますが、血中濃度は最大で50%も低下することがあります。喫煙によって血中濃度が最大で50%減少すると分かっているものは、ベンゾジアゼピン系薬剤やクロザピン、デュロキセチン、フルフェナジン、ハロペリドール、オランザピン、三環系抗うつ薬などです。このように、喫煙が薬物へ及ぼす影響は軽んじてはなりません。
喫煙を止めると、肝酵素の活性は1週間ぐらいで低下します。そうすると、今度は向精神薬の血中濃度が上昇するため、喫煙していた頃より薬を減らす必要があります。そのため、臨床経過や副作用だけではなく、患者さんの喫煙状況も含めてモニタリングする必要があります。
一番良いのは、禁煙してもらうことです。しかし、実際には間欠的に喫煙と禁煙を繰り返すことになり、そうすると薬の作用を予測することが非常に困難になります。肝酵素を誘導するのはタバコによる喫煙であり、ニコチン補充療法をはじめとする禁煙治療は影響しないと言われています。禁煙が無理な場合は、次善の策として禁煙治療を患者さんにおすすめしたほうがよいでしょう。
②禁煙治療
NICEで推奨されていて、かつ、向精神薬との相互作用がないと言われているのは、ニコチン補充療法(NRT)とバレニクリンです。プラセボと比較して、NRTの禁煙成功のオッズ比は1.84、バレニクリンのオッズ比は2.24と、その有効性は高いです。NRTは2種類の製剤を組み合わせることで、さらに禁煙成功率が上がります。
ただし、NRTの副作用には、製剤を貼り付けることによる刺激や初期の睡眠障害があります。また、バレニクリンの副作用には、悪心や頭痛、睡眠障害、奇妙な夢があります。ただ、バレニクリンの副作用は10人に1人以上の割合で起こると言われており、決して低い確率ではないことには注意が必要です。
アルコールと向精神薬の関連
アルコールと向精神薬の関連は非常に複雑です。
①アルコールが向精神薬に及ぼす影響
アルコールは胃でアルコール脱水素酵素(ADH)によって代謝され、その残りは肝臓でADHやCYP酵素(CYP2E1やCYP1A2、CYP3A4など)によって代謝されます。特に慢性的にお酒を飲む場合、誘導されるCYP酵素は多いです。アルコールと向精神薬との関連について、酩酊状態では酵素作用部位が競合して薬剤の血中濃度が上昇する一方で、しらふ状態では優勢となる酵素が誘導されて薬剤の血中濃度が低下するという2つのプロセスがあります。大量飲酒している患者さんでは、酩酊状態の血中濃度が上がるときには毒性が生じる恐れのあるレベルで、しらふ状態では治療が奏功しないレベルでと、薬の作用レベルにかなりの幅があります。飲酒することで、薬の効果をコントロールすることが非常に困難になるのです。特にCYP3A4については、禁酒しても酵素誘導は数週間続くと言われています。そのため、タバコの場合と違って、すぐには禁酒の効果は出ません。
②アルコールと向精神薬の相互作用
アルコールはドーパミンの放出を増大させ、セロトニン経路にも作用するため、鎮静作用があります。また、ドーパミンの放出は精神病症状を惹起させることや、悪化させる恐れがあります。そのため、抗うつ薬や抗不安薬とは相互作用を起こして薬の効果をより強くすること、抗精神病薬に対しては競合的に作用してその効果を弱めることがあります。特に注意しなければならないのが、鎮静作用の相互作用です。CNS抑制を引き起こし、不慮の事故と結びき、呼吸抑制や死亡に至る恐れがあるからです。アルコールの鎮静作用を悪化させる薬剤としては、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬、バクロフェン、ベンゾジアゼピン系薬剤、lofexidine、オピオイド、チザニジン、三環系抗うつ薬、Z系睡眠薬と多岐に渡ります。
③慢性飲酒の患者さんには安全な薬剤
慢性的に飲酒してきた患者さんには、以下の安全な薬を使うとよいでしょう。
- ・抗精神病薬…スルピリド、amisulpride
- ・抗うつ薬…SSRIのcitalopam、セルトラリン
- ・気分安定薬…バルプロ酸、カルバマゼピン
※気分安定薬については、酩酊状態のときには血中濃度が上昇して忍容性不良となることもあります。
まとめ
タバコやアルコールは治療効果を弱めるどころか、時として毒性を生じさせるレベルで薬の効果を強めることもあります。患者さんに喫煙や飲酒の習慣がある場合、タバコやアルコールが薬物療法の障害となることをしっかり説明し、止めさせましょう。
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