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2018.09.252024.04.01
向精神薬と自動車運転との関連について
向精神薬と自動車運転との関連
向精神薬の鎮静作用は注意力や情報処理能力を下げます。そのため、医師としては患者さんに危険性を伴う行為をさせないようにしなければなりません。とはいえ、自動車の運転に関しては、全く運転させないことも日常生活に大きな支障をもたらします。
この記事では向精神薬と自動車運転との関連や、自動車運転で患者さんに注意してもらいたいことなどを解説します。
向精神薬の鎮静作用と運転能力
向精神薬には鎮静作用を持っているものが多いです。この鎮静作用が注意力や集中力を始めとした運転能力に支障をもたらします。H1受容体やアドレナリンα1受容体、コリン受容体を遮断する向精神薬は、運転能力を損ないやすいです。特に向精神薬の飲み始めや、投与量を増やしたときは、まだ脳が向精神薬の影響に慣れていません。そのため、可能であるならば、その期間は患者さんに運転をしないでもらったほうがよいでしょう。
向精神薬ごとの運転能力への影響
主要な向精神薬が運転能力へ及ぼす影響は、以下の通りです。ただし、メンタル疾患の症状そのものが運転能力に及ぼす影響も無視してはなりません。
また、お薬によっては、注意ではなく使用禁忌とされているお薬も中にはありますので、お薬を処方されて運転を予定されている方は医師に確認をお願い致します。
以下に一般的なお薬と運転上の関係について記載を致しました。
①抗精神病薬
EPSや鎮静作用のため、協調運動能力や反応時間が悪くなる恐れがあり、多くの患者さんで運転能力が障害されている可能性があると考えられています。なお、第二世代抗精神病薬やクロザピンのほうが第一世代抗精神病薬と比べ、運転能力の支障の程度が小さいことが報告されています。
また、以下の場合は「自動車の安全な運転に必要な能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈する」状態となりますので、患者さんには運転させない、また患者さんも運転をしないほうがよいでしょう。
- ・急性精神病状態にある
- ・急性精神病状態から回復した直後
- ・最近増悪傾向にある
- ・ごく近い将来に急性精神病状態に陥るリスクが非常に高い
②抗うつ薬
一般に副作用が少ないと言われているSSRIであっても、薬の服用者は健常者と比べると運転能力が低いと言われています。特に薬物療法を開始したばかりのときは交通事故を起こすリスクが高いため、注意が必要です。
精神運動静止など、うつ病の症状自体が運転能力に及ぼす悪影響も決して小さくはありません。統合失調症と同様に、以下の場合は「自動車の安全な運転に必要な能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈する」状態となります。患者さんに運転させない、また患者さんも運転をしない方がよいでしょう。
- ・急性精神病状態にある
- ・急性精神病状態から回復した直後
- ・最近増悪傾向にある
- ・ごく近い将来に急性精神病状態に陥るリスクが非常に高い
③抗てんかん薬
鎮静や運動失調、霧視などといった影響を初期の容量依存性の副作用が及ぼすことがあります。
また、てんかん患者だからといって、即座に運転禁止となるわけではありません。ただ、てんかんは他の病気と比べると、症状が交通事故に非常に結びつきやすいです。そのため、運転免許の取得あるいは更新する場合は、必ず専門家に相談してもらうようにしましょう。
さらに、起きているときに意識障害や運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある場合は非常に危険な状態です。このような場合は患者さんに運転させてはなりません。加えて、体調不良や抗てんかん薬を飲み忘れた場合はてんかん発作が起きやすいので、そのようなときには運転を控えましょう。
④リチウム
暗順応に悪影響を及ぼす可能性があることは分かっていますが、運転の安全性に及ぼす影響は不明な点が多いと言われています。
⑤抗不安薬
ベンゾジアゼピン系薬剤の鎮静作用は情報処理能力や協調運動能力、注意力、記憶力を損なうため、交通事故を起こす恐れが最も高い薬剤と言われています。
⑥メチルフェニデート
ADHDの患者さんの場合、反応時間が長く、症状が運転リスクと関連すると言われています。ただメチルフェニデートを投与することで、成人のADHD患者さんの運転能力が改善すると報告している研究もあります。そのため、ADHDの場合は薬剤よりも症状のほうが運転能力に悪影響を及ぼすと考えられます。
自動車運転を患者さんがするときのアドバイス
精神疾患を抱えていたり、向精神薬を飲んでいるからといって、運転できなくなるというわけではありません。万が一交通事故を起こしたときには症状が悪化したり、病気が再発するというリスクもありますが、住んでいる場所によっては自動車がなければ生活できないこともあります。
医師から禁止や控えるように指示されていないが、持病ある方が運転せざるを得ない場合、具体的に気を付けることができることとして以下のアドバイスをご参考ください
- ・運転時間は短めに
- ・できるのならば、あまり運転しない
- ・混雑している時間帯を避ける
- ・夜間運転はしない
- ・雨や雪、強風など、天気が悪い日は運転しない
- ・高速道路の運転はできれば避ける
- ・運転できる範囲は、慣れ親しんだ自宅近辺のみに留めておく
- ・家族がいることで安心する場合は、家族が同乗するときのみ運転する
- ・体調が悪いときや薬を服用し忘れたときなどは運転しない
医師から注意・助言がなかったとしても、体調がすぐれない時や薬を服用し忘れてしまった時は運転をしないという事は非常に重要です
職種によっては、ルールを設けている会社もあるので注意
職場によっては、自動車関連や工場・高所作業所・運転士の等の関連業務先では、仕事上の車両運転や通勤時の運転に際して、制限や指導を行っている場合もありますので、業務上での運転等、勤務先への確認は重要です。
まとめ
患者さんの症状が落ち着いていたり、お薬の内容によっては、ほとんどの場合は運転することもできます。とはいえ、健康な人であってもいつ起こしてしまうか分からないのが、交通事故です。万が一交通事故を起こしてしまった場合、患者さん本人にかかるストレスは甚大なものです。「運転してもよい」ことは、「運転しても事故を起こさない」こととは全く違うことを患者さんにしっかり理解してもらったうえで、注意して運転してもらいましょう。
他、参考にしたもの
公益社団法人 日本精神神経学会 (2014). 患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン Retrived from https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/20140625_guldeline.pdf<2021年1月24日>
公益社団法人日本てんかん協会 (2021). てんかんと自動車運転 Retrived from https://www.jea-net.jp/epilepsy/drive<2021年1月24日>
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