クリニックブログ
2022.02.272022.12.27
月経前不快気分障害~概要・診断基準~
月経前不快気分障害~概要・診断基準~
名前のなかった精神症状であっても、研究が積み重ねられることで単独の疾患として分類されることがあります。そのひとつが、月経前不快気分障害です。元々は特定不能のうつ病性障害とされていましたが、DSM4に改定されるときに月経前不快気分障害の名前が付きました。さらにDSM5での改定の結果、うつ病と同列に並べられる独立した精神疾患と見なされるようになりました。
この記事ではDSM5に基づいて、月経前不快気分障害の概要や診断基準などを説明します。
月経前不快気分障害の概要
月経前不快気分障害の大きな特徴は、著しく不快な気分や行動面・身体面における症状が月経周期に沿って出たり消えたりすることです。症状は、月経が始まる数日ぐらい前から出現しはじめ、月経開始当日前後にピークに達します。そして月経が終わる頃には、症状はほとんど消えてしまいます。症状が見られる期間が数日ほど延びることもありますが、月経が終わっている卵胞期にはほとんどの症状が必ずなくなります。
次の診断基準Bに記載されているように、月経前不快気分障害の中核症状は情緒不安定やイライラ、不安などの著しく不快な気分です。そして、集中できないといった行動面の症状や腰をはじめとする関節が痛いといった身体面の症状が見られます。行動面や身体面に症状は見られるけれども著しく不快な気分が見られない場合は、月経前不快気分障害とは診断されません。
月経前不快気分障害の診断基準
診断基準は以下の通りです。
A 先行する1年間の月経周期のほとんどにおいて、基準BとCに記載されている症状が5つ以上認められる
上記の症状は月経開始前の最終週から見られはじめ、月経が開始すると数日内に軽減していく。月経が終了すると症状はほぼ見られなくなる
B 以下の4つの症状のうち1つ以上が存在する
(1)著しく情緒不安定になる(例 いきなり悲しくなる。拒絶されることに過敏になる)
(2)著しいイライラや怒り。対人関係で衝突しやすくなる
(3)著しい抑うつ気分。自己批判的思考を非常に行いやすくなる
(4)著しい不安や緊張
C 以下の7つの症状のうち1つ以上が存在する
(1)学業や仕事、対人関係、趣味などに興味を抱けない
(2)集中できない
(3)だるい。疲れやすい。気力が全くわかない
(4)過食。特定の食物(例 チョコレート)ばかり食べることもある
(5)睡眠障害(過眠または不眠)
(6)自分の感情や行動などをコントロールできない感じがする
(7)胸の痛みや張った感覚。関節や筋肉が痛い。お腹が膨れた感覚。体重増加
D その症状は、臨床的に意味のある苦痛を引き起こしたり、勉学や仕事、家事、対人関係などに支障をもたらしたりしている
E 症状は他の精神疾患が増悪した結果ではない
(例)うつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、パーソナリティ障害など
※鑑別基準については後編の記事で解説します
F 回想された症状ではなく、毎日の評価によって2周期以上の月経に沿って症状が出たり消えたりすることが確認されている
※この確認を行う前に「暫定」という形で診断を下すこともあります
(記載例)月経前不快気分障害、暫定
G 症状は物質の生理学的作用や他の身体疾患によるものではない
診断マーカー
うつ病や持続性抑うつ障害と異なり、基準Fに記載されているように月経前不快気分障害では診断を下すにあたり2カ月間の前方視的症状評価が行われます。前方視(評価開始時点から未来方向へ前向きに記録していくこと)であって後方視(評価開始時点から過去方向へ後向きに記録していくこと)ではない理由は、月経開始時期の出来事は比較的記憶に残りやすいためです。うつ病や持続性抑うつ障害の患者さんが毎日の症状を実際に記録すると、月経前に症状が集中していないこともあります。
また、月経前不快気分障害の症状を評価する尺度として以下があります。
・症状重症度連日評価
・視覚的アナログ尺度(月経前気分症状を測定します)
月経前緊張症候群評価尺度は疾患の重篤度を評価するものです。この尺度は自己評価だけではなく観察者評価もあります。
月経前不快気分障害が引き起こす問題
月経前不快気分障害の重症度は、抑うつエピソードや全般不安症などと同等です。特に、月経前期は自殺のリスクが高まる期間であると考える者もいるほど重症です。
著しく不快な気分や行動面・身体面の症状は、臨床的に意味のある苦痛や勉学や職業、家事などの能力低下だけではなく、対人関係にも多くの問題をもたらします。支障がでる相手は配偶者や子どもといった自分の家族だけではなく、友人や職場なども含まれます。症状の持続期間こそ7日間程度とあまり長くありませんが、毎月のように症状が出てくるため人間関係の衝突が繰り返されることになります。
なお、夫婦間や職業上の慢性的な問題の原因は他にもあるため、これらの問題を月経前不快気分障害に特有の機能障害と誤解してはいけません。
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