クリニックブログ
2022.07.262022.12.26
物質・医薬品誘発性抑うつ障害~概要・診断基準~
物質・医薬品誘発性抑うつ障害~概要・診断基準~
一般的に性格や遺伝、環境、ストレスなどが複雑に絡み合った結果、うつ病に陥ります。しかし例外として、物質によって引き起こされる「物質・医薬品誘発性抑うつ障害」があります。その定義上、物質が抑うつ症状の原因となりますが、他のうつ病との鑑別は決して容易ではありません。
DSM5における物質・医薬品誘発性抑うつ障害の概要や診断基準について、この記事では詳細に説明します。
物質・医薬品誘発性抑うつ障害の概要
物質・医薬品誘発性抑うつ障害とは、何らかの物質が原因となって抑うつ症状が生じることです。物質を摂取したことによる生理学的作用や中毒だけではなく、物質の離脱でも抑うつ症状は生じます。抑うつ症状を引き起こす可能性のある物質は多いです。その一例として、以下があります。
・アルコール
・違法薬物(例 コカイン、幻覚薬など)
・精神科の治療薬(例 睡眠薬、抗不安薬など)
・その他の医薬品(例 アルファメチルドパ(降圧薬)、高用量のステロイド)
多くの場合、抑うつ症状をもたらす物質を使用してから数週間から1ヶ月以内に物質・医薬品誘発性抑うつ障害を発症します。そしてその物質を中断すると、数日から数週間以内に抑うつ症状は改善されるとされています。しかし、その物質の半減期や離脱症候群の有無などの理由から、抑うつ症状が改善するまでに必要な期間を明確に定めることは困難です。なかには物質の使用を止めても長期間に渡って強い抑うつ症状が続くこともあります。
物質・医薬品誘発性抑うつ障害と他の抑うつ障害を鑑別することは、決して簡単なことではありません。それというのも、他の疾患を治療するために医薬品を服用しているときに原発性の抑うつ障害(一次性のうつ病)を発症する可能性もあるためです。そのため、抑うつ症状の発症・経過や、物質使用と関連する要因などを考慮する必要があります。例えば、物質の離脱にかかる期間を超えて4週間以上も抑うつ症状が持続する場合、物質が症状に影響を及ぼしているとはあまり考えられません。
物質・医薬品誘発性抑うつ障害の診断基準
診断基準は以下の通りです。
A 抑うつ気分あるいは興味・喜びの減退といった著しい気分の障害が見られる
B 身体診察の所見や既往歴、検査結果などから以下の(1)と(2)の両方が認められる
(1)物質の中毒あるいは離脱の期間や、その直後に基準Aの症状が生じた
(2)その物質は基準Aの症状を引き起こす可能性がある
C 他のうつ病であるという証拠がない
※他のうつ病である証拠の例
・物質を使用する前から抑うつ症状が存在していた
・中毒や離脱の期間が終わってから1ヶ月以上のかなりの期間が経過しても症状が
持続している
・他のうつ病の既往歴がある
D せん妄(思考力や注意力、記憶力が急速に低下する状態。回復に数週間かかることもあ
る)状態のときにのみ気分の障害が見られるわけではない
E その症状は、臨床的に意味のある苦痛や、人間関係、仕事、勉学、家事などの大切な領域における機能障害をもたらしている
※治療をはじめとする臨床上の注意を必要とするほどの重症度ではない場合は、物質中毒や物質離脱の診断が下される
コードする際の注意点
ICD-9-CMとICD-10-CMでは物質・医薬品誘発性抑うつ障害のコード方法が少し異なる点に注意しましょう。
ICD-9-CMの場合
ICD-9-CMでは以下の順に記録します。
① 抑うつ症状を引き起こした物質のコード
※診断コードの分類に当該の物質が含まれない場合は「他の(または不明の)物質」の
コードとなる
② 診断名
③ 発症の詳細(中毒中の発症、あるいは離脱中の発症)
例えば「292.84睡眠薬誘発性抑うつ障害、中毒中の発症」となります。もし物質使用障害も併存している場合は、その診断も下さなければなりません。複数の物質が抑うつ症状の発症に関わっていると判断される場合は、それぞれ列記されます。
ICD-10-CMの場合
ICD-10-CMでは物質使用障害を併存しているか否か、物質使用障害を併存している場合はその重症度も記録しなければなりません。先ほどの例の場合、「F13.14軽度睡眠薬使用障害を伴う睡眠薬誘発性抑うつ障害、中毒中の発症」となります。物質使用障害も併せて記録しているため、ICD-9-CMと異なり物質使用障害について別個の診断は下しません。なお、物質を一度に大量摂取した場合のように物質使用障害が併存しないこともあります。この場合は「F13.94睡眠薬誘発性抑うつ障害、中毒中の発症」と記録します。
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